II発注構造・費用の仕組み

SIer・フリーランス・自社開発、保守費で差が出る理由

公開日:2026年9月8日最終更新日:2026年9月8日サイバーコネクト編集部

開発の見積もりを比べて発注先を決めたのに、リリースから半年、1年経ったころに「思っていたより保守費がかかる」「連絡がつきにくくなった」という違和感が出てくることがあります。経営層からは「安いところに頼んだはずなのに、なぜ月々の費用が想定以上なのか」と聞かれ、現場責任者は答えに詰まる。この落差に戸惑う人は少なくありません。

実はこの違和感の多くは、発注先の良し悪しではなく、開発費の見積もり段階では見えにくい「保守運用にかかるコストの構造」が発注形態ごとに違うために起きています。開発費という一時的な支出だけを比較していると、その後何年も続く保守フェーズのコスト差が見落とされがちです。

この記事では、SIer・フリーランス・自社開発それぞれで保守運用費がどのような理由で違ってくるのか、その構造を整理し、契約前にどこを確認しておくべきかを見ていきます。

なぜ保守費は発注形態によって差が出るのか

保守運用費とは、システムを作った後に発生する「不具合対応」「軽微な修正」「サーバーやOSのアップデート対応」「問い合わせ対応」などにかかる継続費用のことです。開発費が「作る」ためのコストなら、保守費は「動かし続ける」ためのコストと考えると分かりやすいところです。

この保守費の性質が発注形態によって変わってくるのは、それぞれの体制・契約の仕組みが違うためです。

  • SIer(システム開発会社):開発チームとは別に保守専門の担当者・窓口を置いていることが多く、保守契約自体が独立したメニューとして用意されている
  • フリーランス:個人で開発から保守まで担当することが多く、体制の厚みがない分、窓口が1人に集中する
  • 自社開発:社内エンジニアが対応するため外部への支払いは発生しないが、その人員の稼働時間や人件費という形でコストが内在化している

この違いは「どちらが優れているか」ではなく、保守という業務をどんな体制で受け止めているかの差です。ここを理解しておくと、見積もり時の「保守費込みです」「別途相談です」という言葉の意味の重さが変わってきます。ここは、次に見積もりを比べるときにそのまま使える視点なので、メモしておくといいところです。

専任窓口型
兼任・属人型
発注形態による保守体制の違い

SIerの保守費が高く見える理由と、その中身

SIerに保守を依頼すると、フリーランスや自社対応と比べて月額費用が高く見えることがあります。これは単純な利益上乗せというより、体制のコストが料金に反映されているためです。

SIerの保守契約には、担当者が急に対応できなくなった場合の代替要員、障害発生時の一次対応窓口、定期報告や進捗管理といった業務が含まれていることが一般的です。つまり「担当者個人の稼働」だけでなく「担当者が不在でも業務が止まらない仕組み」への対価という側面があります。

一方で、この体制がすべての案件に必要かというとそうとも限りません。小規模なツールや、変更頻度が低いシステムであれば、そこまでの手厚さがコストに見合わないケースもあります。発注先を比較する際は、保守費の金額差だけでなく「その金額に何が含まれているか」を確認することが実務上のポイントです。

フリーランス・自社開発の保守で見落とされがちな点

フリーランスに依頼する場合、開発費自体はSIerより抑えられることが多い一方で、保守フェーズに入ってから想定外の事態に直面することがあります。

失敗パターン1:担当者と連絡が取りにくくなる。フリーランスは他の案件と並行して稼働していることが多く、緊急の不具合対応が後回しになる可能性があります。契約書に「対応時間の目安」や「連絡手段」が明記されていないと、いざというときに困る、という声が現場責任者から聞かれます。

失敗パターン2:属人化によって、担当者が体調不良や契約終了で離脱した際に、システムの仕様を理解している人がいなくなる。この場合、別の発注先に引き継ぐための調査費用が新たに発生することがあり、結果的に当初の見積もり以上のコストがかかることになります。

自社開発の場合は、外部への支払いという形では見えないため一見コストがかからないように感じられますが、実際には担当社員の稼働時間が保守業務に割かれている分、他の業務に使えるはずだった時間が消費されています。この「見えないコスト」を経営層に説明する際は、担当者の工数を金額換算して示すと、投資判断の材料として伝わりやすくなります。

社内の限られた人員だけでシステムの保守を回そうとすると、担当者一人にかかる負荷が大きくなりやすいことは、IT人材の確保・育成に関する調査でも一般的に指摘されている傾向です。属人化のリスクは、担当者の善意や頑張りでカバーされている場合が多く、その担当者が抜けた瞬間に表面化しやすい、という点は押さえておきたいところです。

契約前に確認しておきたい保守費のチェックポイント

保守運用費の差は、発注してから気づくのではなく、契約前の段階である程度見通しを立てておくことができます。以下は確認しておきたい項目です。

  1. 保守の範囲:不具合修正のみか、軽微な機能追加も含むか。含まれる作業の線引きを事前に確認する
  2. 対応時間・連絡手段:緊急時にどのくらいの時間で一次対応があるか、営業時間外の扱いはどうなっているか
  3. 体制の継続性:担当者が離脱した場合の引き継ぎ方針が用意されているか
  4. 契約更新のタイミング:保守契約が単年更新か、開発契約に自動的に付随するものかを確認する
  5. 費用の算出根拠:月額固定か、対応件数に応じた従量課金かを事前にすり合わせる

これらは、開発費の比較段階では話題に出にくい項目です。見積もり比較の場面では、SIer・フリーランス・自社、価格構造比較の落とし穴で触れているように、範囲・体制・契約形態の違いを先に整理しておくと、保守費についても同じ軸で質問がしやすくなります。発注する側が意識しておきたいのはここで、開発費だけでなく保守フェーズまで含めた総コストで比較するという視点を持っておくことです。

なお、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が毎年公表している「IT人材白書」では、企業のIT人材の確保・育成に関する課題や実態が継続的に取り上げられています。自社の体制を検討する際の参考として、こうした公的な調査資料に目を通しておくのも一つの方法です。

まとめ

  • 保守運用費の差は発注先の優劣ではなく、SIer・フリーランス・自社開発それぞれの体制構造の違いから生まれる
  • SIerの保守費が高く見える背景には、担当者不在時の代替体制など「業務が止まらない仕組み」への対価が含まれている
  • 契約前には保守の範囲・対応時間・体制の継続性・費用の算出根拠を確認し、開発費だけでなく保守フェーズまで含めた総コストで比較する視点を持っておくとよい

執筆

サイバーコネクト編集部

誇張や決めつけを避け、現場で実際に判断材料になる情報だけをお伝えします。

監修

木村 真之

株式会社サイバーコネクト 代表取締役社長

2021年11月に同社を設立。

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