SIer・フリーランス・自社、規模で選び方は変わるか
「SIerは高いけど安心、フリーランスは安いけど不安、自社開発は理想だけど人がいない」——比較検討をしていると、なんとなくこの3択のイメージに落ち着いてしまうことが多いのではないでしょうか。ただ、この整理のまま発注先を決めると、後になって「思っていたのと違う」というズレが出やすくなります。
実は、この3つの選択肢は「安い・高い」「安心・不安」という軸で比べるものではなく、そもそも得意とする案件の規模が違う、という前提で見ると整理がつきやすくなります。SIerは大規模・長期の体制を前提に価格構造ができており、フリーランスは小さく速く動く前提、自社開発はその中間かつ持続を前提にしている、という違いです。
この記事では、SIer・フリーランス・自社開発それぞれが「どのくらいの規模の案件を前提に価格構造を組んでいるか」を整理し、自社の案件規模と発注先を照らし合わせる判断基準を提示します。
なぜ「安い・高い」で比べると判断を誤りやすいのか
相見積もりを取ると、同じ要件のはずなのに金額に大きな差が出ることがあります。この差の理由は、これまでもSIer・フリーランス・自社、見積書の構造を読むで扱ったように、発注先ごとにコストの種類が違うためです。SIerは複数人の体制を常に維持するコスト、フリーランスは自分一人の稼働時間を売るコスト、自社開発は雇用と育成のコストが土台にあります。
ここで見落とされがちなのが、この価格構造は「その発注先が普段どのくらいの規模の案件を扱っているか」に合わせて最適化されている、という点です。SIerの価格体系は、数十人月・数ヶ月〜数年という規模の案件を前提に組まれているため、小規模な改修案件に当てはめると、体制維持コストの割合が相対的に重く感じられます。反対にフリーランス一人に大規模・長期の開発を依頼すると、体制としての冗長性(担当者が倒れた場合の代替、レビュー体制など)が薄くなり、規模に対してリスクが見合わなくなります。
つまり「高い・安い」に見える差の多くは、実は「その規模の案件に対して、その価格構造が合っているか」という適合度の差でもあります。ここは、次に発注先を比較する際にそのまま使える視点なので、メモしておくといいところです。
SIer・フリーランス・自社開発、それぞれが前提にしている規模
SIerが前提にしている規模
SIerは、プロジェクトマネージャー・エンジニア・品質管理担当など、複数の役割を組み合わせた体制を組むことを基本の商流としています。この体制を維持するための固定的なコストがあるため、案件規模が大きく、体制を長期間維持する必要がある場合ほど、コストパフォーマンスが発揮されやすい構造になっています。逆に、担当者一人で数週間で終わるような小規模な改修に体制型の商流を当てはめると、管理コストの比率が高く見えてしまうことがあります。
フリーランスが前提にしている規模
フリーランスは、基本的に一人(または少人数のチーム)の稼働時間を直接売る形が多く、体制維持のための固定費が小さい分、単価そのものが案件規模に強く縛られません。小〜中規模で、担当者の専門領域がはっきりしている案件との相性が良い一方、大規模になるほど一人でカバーできる範囲を超え、体制としての冗長性の不足が課題になりやすくなります。この不安はフリーランス発注、退職リスクをどう見るかでも触れた、属人化した情報管理の問題と根が同じところにあります。
自社開発が前提にしている規模
自社開発(内製)は、雇用というコストの重さがある分、単発の案件規模では割高に見えやすい構造です。ただし、継続的に開発・改善を続ける前提であれば、外部発注のたびに発生する要件伝達コストや契約コストを抑えられるという側面があります。つまり自社開発は「一つの案件の規模」ではなく「継続する期間全体でどれだけの開発ボリュームがあるか」で評価したほうが、構造に合った判断になりやすいところです。
規模のミスマッチが起きるとどうなるか
この規模の前提がずれたまま発注すると、価格そのものよりも「体制がうまく機能しない」という形で問題が表面化しやすくなります。
失敗パターン1:小規模案件をSIerの体制型商流に当てはめる 体制を組む前提のコスト構造の中に、実質的な作業量が小さい案件を乗せると、管理費用や調整コストの比率が高くなり、見積もり自体が割高に感じられます。情報処理推進機構(IPA)が公表しているDX白書関連の資料でも、外部リソースの活用にあたっては自社の課題規模や体制と発注形態を合わせて検討する視点が繰り返し取り上げられており、規模に見合わない発注形態を選ぶこと自体がミスマッチの要因になり得ると整理できます。
失敗パターン2:大規模・長期の開発を一人のフリーランスに依存する 稼働時間の売買という契約構造上、担当者の体調・離脱・スケジュールの制約がそのまま開発の継続性に直結します。規模が大きくなるほど、この単一障害点のリスクが相対的に重くなります。
失敗パターン3:単発案件のために内製化コストをかける 一度きりの開発のために採用・育成コストをかけると、その案件だけでは投資回収が難しくなります。継続的な開発計画があるかどうかを先に確認しておくことが、判断のポイントです。
規模を軸にした判断基準の整理
自社の案件がどの規模帯に近いかを、次の3つの観点でおおまかに整理すると、発注先の相性が見えやすくなります。
- 開発ボリューム:数日〜数週間で終わる改修か、数ヶ月〜年単位のプロジェクトか。ボリュームが大きく複雑な調整が必要になるほど、体制型の発注先との相性が高まります。
- 継続性:単発の依頼か、継続的に発生する開発・改善か。継続する見込みが強いほど、自社開発や長期契約を前提にした発注先を検討する価値が出てきます。
- 必要な専門領域の広さ:一つの技術領域で完結するか、複数の専門性(インフラ・セキュリティ・デザインなど)を横断するか。横断する領域が広いほど、一人の担当者に依存する発注形態はリスクが高まります。
この3つは、見積もりを比較する前の社内すり合わせでもそのまま使える整理軸です。規模の見立てが社内でずれていると、経営層は「小さく試したい」、現場は「一度でしっかり作ってほしい」というように、そもそも前提としている規模感が食い違ったまま比較検討が進んでしまうことがあります。ここは、比較を始める前に一度言葉にしておきたいところです。
なお、規模の見立てがついた後も、実際の金額差は要件の粒度や前提条件の置き方によって変わってきます。この点は見積もりの「前提条件」が食い違う理由で詳しく整理しているので、比較の実務に進む際にあわせて確認しておくと、判断の精度が上がります。
まとめ
SIer・フリーランス・自社開発の価格差は、単純な「安い・高い」ではなく、それぞれが前提にしている案件の規模の違いから生まれています。
- SIerは体制維持コストを前提とするため、大規模・長期の案件と相性が良い
- フリーランスは稼働時間の売買が基本のため、小〜中規模で専門領域が明確な案件と相性が良い
- 自社開発は単発では割高に見えても、継続的な開発ボリュームがあれば構造上の合理性が出てくる
発注先を比較する前に、まず自社の案件がどの規模帯に近いかを整理しておくことが、価格差そのものよりも重要な判断材料になります。
執筆
サイバーコネクト編集部
誇張や決めつけを避け、現場で実際に判断材料になる情報だけをお伝えします。
監修
木村 真之
株式会社サイバーコネクト 代表取締役社長
エンジニアとしてキャリアを開始。自ら事業を立ち上げた経験から、システム開発では事業の目的・顧客の課題・収益構造まで理解することが重要だと考え、技術と事業の橋渡し役となるPMとして活動。2021年11月に同社を設立。
まずはお話をお聞かせください。
要件が整理されていない段階でもご相談いただけます。
関連記事
保守契約を結ばないとどうなるか、価格構造で読む
保守契約を見送ると実務上何が起きるのか。トラブル対応の優先順位や費用発生の仕組みを、発注先別の価格構造から整理します。
相見積もりが逆に高くつく理由とその対処法
相見積もりを取ったのに総額が高くついた——その背景には、各社の見積もり範囲がそもそも揃っていないという構造があります。防ぎ方を整理しました。
追加開発費用が高く感じる理由と相場の考え方
追加開発の見積もりが想像より高く感じるのはなぜか。単価の感覚のずれと構造的なコストの背景、依頼前に確認しておきたい視点を整理します。
情報の取り扱いと免責:本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する助言ではありません。 統計・数値等は出典を明記したもの以外は掲載していません。内容は公開時点の一般的な傾向を示すものであり、 実際の発注・契約にあたっては個別の事情に応じて専門家・取引先とご確認ください。