I要件定義・見積もりの壁

要件定義書が「あの人頼み」になる属人化の罠

公開日:2026年10月13日最終更新日:2026年10月13日サイバーコネクト編集部

「この要件、詳しいのはAさんだけなんです」——開発会社との打ち合わせでそう答えた瞬間、場の空気が少し重くなったことはないでしょうか。Aさんが異動したり、体調を崩して休んだりしたら、この要件定義はどうなるのか。そう考えると、急に足元が心許なくなります。

実はこれ、特定の誰かの能力や資料作成の丁寧さの問題ではなく、要件定義というドキュメントの作られ方そのものに属人化が起きやすい構造が潜んでいるために起きることが多いものです。

この記事では、要件定義書が「あの人がいないと分からない」状態になってしまう理由と、発注側が属人化のリスクを事前に小さくしておくための視点を整理します。

なぜ要件定義書は「あの人しか分からない」ものになるのか

要件定義書は、本来であれば誰が読んでも同じ理解にたどり着けることが望ましい資料です。しかし実際には、ヒアリングの場で交わされた口頭でのやり取りや、画面を見ながらの「ここはこういう意味です」という補足説明が、資料そのものには書き切れないまま残ってしまうことがよくあります。

結果として、ドキュメントの行間を埋める情報が担当者の頭の中にしか存在しない状態になります。資料を読んだだけでは「なぜこの仕様になったのか」という経緯や、「この業務ルールは例外的にこう扱う」といった細かい前提が分からず、説明できるのは打ち合わせに同席していた本人だけ、という事態が生まれます。

これは資料の出来不出来というより、要件定義という工程自体が「対話を通じて業務知識を言語化していく」作業であるために起きやすい構造だと捉えると整理がしやすくなります。対話の中で生まれた共通理解を、その場にいなかった人にも伝わる形で文書に残せているかどうかが分かれ目になります。ここは、次に要件定義の資料を受け取ったときに確認しておきたい視点です。

属人化したドキュメントが引き起こす実務上の支障

属人化が表面化するのは、たいてい担当者が不在になるタイミングです。社内の異動や退職はもちろん、開発会社側の担当者が変わるケースでも同じことが起きます。新しい担当者が資料だけを頼りに作業を引き継ごうとしても、前提が書かれていないために「この仕様は何のために必要なのか」が読み取れず、確認のやり取りが増えていきます。

この確認作業自体が、見えにくい形でのコスト増につながります。打ち合わせの回数が増える、仕様の解釈違いが起きて手戻りが発生する、といった形で時間と費用が積み重なっていくためです。契約時点では見積もりに現れない部分だからこそ、後になって「なぜこんなに確認作業が多いのか」という違和感として現場に跳ね返ってきます。

担当者が離脱資料だけが残る前提が読み取れない確認作業が増える
属人化したドキュメントが引き継がれるまでの流れ

さらに厄介なのは、属人化しているかどうかは資料のページ数や見た目では判断しにくいという点です。ボリュームのある資料であっても、行間を埋める前提が担当者の頭の中にしかないケースは珍しくありません。発注側が「資料はちゃんとある」と安心してしまいやすいのは、ここに理由があります。

情報処理推進機構(IPA)が公表している「DX白書2023」でも、IT人材やデジタル活用に関するノウハウが特定の個人に依存しやすく、組織としての知識継承が課題になりやすい点が指摘されています。要件定義の属人化も、この延長線上にある問題と捉えると位置づけがしやすくなります。

発注側が事前にできる、属人化を防ぐための確認の仕方

属人化そのものを完全になくすことは難しいとしても、リスクを小さくしておく工夫はあります。

  1. 「なぜそうなったか」を資料に残す:仕様だけでなく、その仕様に決まった理由や、検討した上で採用しなかった選択肢も簡単にメモしておくと、後から読む人の理解が格段に進みます。
  2. 担当者を複数にしておく:ヒアリングや仕様確認の場に、必ず複数人が同席するようにしておくと、一人が離脱しても記憶や経緯を補える人が残ります。
  3. 定期的に資料を読み合わせる:作成してそのままにせず、関係者で定期的に資料を見返し、「これは今でも通じるか」を確認する機会を設けておくと、属人化に気づきやすくなります。

発注側として意識しておきたいのは、要件定義書を「一度作って終わりの成果物」ではなく「複数人で更新していく共有財産」として扱う姿勢です。ここは押さえておきたいところです。

属人化のリスクは、要件定義書、誰が書くべきかで揉める理由で扱った「作成責任の所在が曖昧になる問題」とも根が近く、誰か一人に作成も理解も委ねてしまう体制そのものを見直すきっかけにもなります。

まとめ

  • 要件定義書が属人化するのは、担当者の能力の問題ではなく、対話で生まれた前提が文書に残りにくいという工程の構造によるものです。
  • 属人化したドキュメントは、担当者の異動や退職といった離脱のタイミングで、確認作業の増加や手戻りという形の見えにくいコストとして表面化します。
  • 「なぜそうなったか」を資料に残す、担当者を複数にする、定期的に読み合わせるといった工夫で、属人化のリスクは事前に小さくしておくことができます。

執筆

サイバーコネクト編集部

誇張や決めつけを避け、現場で実際に判断材料になる情報だけをお伝えします。

監修

木村 真之

株式会社サイバーコネクト 代表取締役社長

エンジニアとしてキャリアを開始。自ら事業を立ち上げた経験から、システム開発では事業の目的・顧客の課題・収益構造まで理解することが重要だと考え、技術と事業の橋渡し役となるPMとして活動。2021年11月に同社を設立。

運営者情報を見る

まずはお話をお聞かせください。要件が整理されていない段階でもご相談いただけます。

お問い合わせ

情報の取り扱いと免責:本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する助言ではありません。 統計・数値等は出典を明記したもの以外は掲載していません。内容は公開時点の一般的な傾向を示すものであり、 実際の発注・契約にあたっては個別の事情に応じて専門家・取引先とご確認ください。